この記事ではオーストラリアでの大学院進学を考え始めた人向けに、現地大学院の特徴や留学予算、オーストラリアを選ぶメリット等を紹介しています。
さらには大学選びから入学までの基本的な流れも紹介しているので、留学を決めた後、どんな順番で何をすれば良いかおおまかにわかるようになっています。
自身も日本の大学からオーストラリアの大学院へ進学、2年間の修士課程を修了した著者が、実体験を交えてリアルな情報をお伝えします。
この記事の著者:Yuki Aus
長崎県生まれ・育ちの日本人。早稲田大学卒業後、オーストラリア University of Queensland の修士課程に進学、応用言語学を専攻。卒業後は東京を拠点に法人クライアントのあらゆる言語ニーズに応える個人事業を開業。日本語・英語学習サービスの作成・管理、語学参考書の執筆、大学会議の通訳やビジネス文書翻訳・ゲームのローカライズ業務など、多岐にわたる言語サービスを提供している。
オーストラリア大学院留学の全体像
オーストラリア大学院の特徴
オーストラリアの大学院進学には、日本や他国と似ている特徴もあればそうでないところもたくさんあり、オーストラリアならではのメリットにつながるものもあります。
オーストラリアの大学院進学におけるおおまかな特徴として、以下のようなものがあります:
①大学の数自体は少なく、ほとんどが国公立
オーストラリアには全国で43校しか大学がありません。日本の場合全国の大学数は800校ほどですから、比べると非常に少ないことがわかります。さらにこのうち、40校が国公立、3校が私立となっています。
②大学院の教育・研究水準が高い
オーストラリアの大学院は、いわば少数精鋭です。
世界の1400以上の大学をランク付けしたQS世界大学ランキング2023(QS World Universities Rankings 2023)において、43校しかないオーストラリアの大学のうち7校が100位以内にランクインしています。
- Australian National University(30位)
- The University of Melbourne(33位)
- The University of Sydney(41位)
- The University of New South Wales(45位)
- The University of Queensland(50位)
- Monash University(57位)
- The University of Western Australia(90位)
ここでは、Group of eightと呼ばれる国内トップの8大学をはじめ、都市部の主要大学が国際性・就職力・研究力などで高く評価されています。
- Australian National University
- The University of Melbourne
- The University of Sydney
- The University of New South Wales
- The University of Queensland, Monash University
- The University of Western Australia
- The University of Adelaide
③修士の場合、座学中心課程か研究中心課程の2種類
オーストラリアの大学院で特に修士号(Master’s degree)を取る場合、「コースワーク(coursework)」か「リサーチ(research)」の2つの選択肢があります。
コースワークは学士課程と同様、決められた授業を受講し単位を取得することで卒業することができます。
卒業する学期には卒業論文の提出を求められますが、在学中に研究活動(学会発表や論文執筆)を行う必要はありません。
学部で学んだテーマをもっと専門的に掘り下げて学んだり、就職の幅を広げたい人のための課程です。
一方リサーチは文字通り、在学中に研究計画を立案・実行し、その成果をまとめた研究論文を書き上げます。
卒業後も博士課程に進み、研究者としてのキャリアを目指す人向けです。
入学前から研究活動経験を求められるため、日本の4年制大学を卒業後すぐにリサーチに進むのは少し難しいです。
④期間に柔軟性がある
修士課程は大学・専攻によって、1年・1.5年・2年と期間は異なります。
大学院課程(postgraduate)にはMaster(修士)以外に半年間のGraduate Certificate, 一年間のGraduate Diplomaのコースがあります。日本ではなじみの薄い学位ですが、準修士にあたります。
まずは短いコースに入学して、自分に合っているか見極めてから期間延長し修士号を取得することもできます。
私の中国人の友達はGraduate Certificateコース(半年)で入学し、内容が気に入りMasterコース(2年)に延長していました。2年以上の就学後に申請できる卒業生ビザの取得を目指すのも理由にあったようです。
私の大学のTESOLではクラスの半数(主にオーストラリア人)がGraduate Certificateコース、残り半数(主に留学生)がMasterコースでした。
どちらのコースも同じ授業を受けますが、Masterコースは期間が長いので科目や取得する単位が増えます。
学期制度・在学期間について
オーストラリアの大学における学期は「セメスター(semester)」と呼ばれ、1年間は2セメスターで構成されています。
通常、第1セメスターは2月~6月、第2セメスターは7月~11月です。大学やプログラムによる違いはあるものの、多くのプログラムではどちらの学期でも入学が可能です。
さらに、セメスター間にあたる6~7月の1か月間は冬休み、11月~2月の3か月間は夏休みとなり、旅行に行ったり、アルバイトに勤しんで生活費を稼ぐことができます(アルバイトについて、詳しくは「2 オーストラリア大学院留学のメリット」をお読みください)。
卒業までにかかる年数は修士課程で2年、博士課程で3~4年が一般的ですが、プログラムによっては1年半などで卒業でき、学費を抑えられるものもあります。
入学者選抜の方法・難易度
①選抜方法
オーストラリアの大学院では、いわゆる入試を課されることは少なく、書類による選考が行われます。
必要な書類は出願する学問分野によって変わりますが、どの分野でもたいてい求められるのは日本で卒業した大学の学位証明書、成績証明書、英語力の証明書です。
それにプラスして、例えばビジネス系のコースワークに出願する場合であれば職務経歴書、リサーチコースに応募する場合は過去発表した論文や在籍した大学教授の推薦状が必要になるなど、志願するプログラム固有の提出書類があります。
具体的に求められる書類は出願するプログラム単位で異なるので、大学の入学希望者向けウェブサイトをよく確認しましょう。
②入学の難易度
学業成績の条件として、日本の大学卒業時のGPAが3.0程度あることが求められます。
また英語力に関してはたいがい、IELTSスコアで6.5程度(TOEFL iBT換算で79点程度) が求められます。
英語力の証明には、オーストラリアにおいてはIELTSが最もメジャーです。
大学院ではIELTSと並んでポピュラーな試験であるTOEFL iBTも広く認められていますが(参考:ETSサイト)、まれに認めていないプログラムもあります(例:The University of Melbourne の Doctor of Clinical Dentistry)。
そのため、特にこだわりがなければIELTSスコアを持っておくのが最も安全です。
壁は決して低いとは言えませんね。ただし英語力に関しては基準に達していなくても、大学の提携する英語学校で指定期間学ぶこと等を条件に受け入れてくれる「条件付き合格」がもらえることもあります。
このような入学の裾野を広げる仕組みがあることも多いので、志望大学の入学要件を下回っていてもあきらめる必要はありません。
留学費用の目安
①学費
オーストラリアの大学院の授業料は日本の大学より高く、1年間で200万円~400万円となるプログラムが多いようです。一般的に、前述のGroup of eight等の名門大学のほうが授業料が高くなります。
修士課程に進む人は2年分、博士課程に進む人は3年~4年分の学費で見積りを立てましょう。
②生活費
オーストラリアはかなり物価が高く、生活費も高めになります。
生活費の大部分を占める家賃ですが、日本と違い1人用の手頃な値段のアパートというのはあまり一般的ではありません。
大学が提携する学生寮・アパートに2人~4人のルームメイトと住むのが一般的であり、家賃も抑えられます。この場合家賃は月5万円~15万円ほどで、都市部に近くなるほど、また部屋をシェアする人数が少ないほど高くなります。
食費についても、日本と比べ外食はかなり高い(安めのものでも1人1食1000円~2000円程度)ため、自炊前提の生活になります。
WoolworthsやColesといった大衆向け大手スーパーなら手頃な値段で食品をそろえられ、月2~3万でやりくりできるでしょう。
英語力の目安
オーストラリアの大学ではIELTSを入学条件としているところが多く、全体スコアは6.5程度、かつスピーキング・ライティング・リスニング・リーディングの全セクションで6.5以上を求められることが多いです。
ただし通訳・翻訳系や法学系の修士課程など、非常に専門的な言語の理解が必須なプログラムでは7.0ほど求められることもあります。
実際の大学・プログラムで要求されている英語力の一例をご紹介します:
大学 – 学科 | 全体スコア | スピーキング | リーディング | ライティング | リスニング |
Australian National University Master of Computing | 6.5 | 6.0 | |||
The University of Sydney Master of Business Administration (MBA) | 7.0 | 6.0 | |||
The University of Melbourne Master of Psychology | 7.0 | 7.0 |
参考:Australian National University、The University of Sydney、The University of Melbourne
オーストラリア大学院留学のメリット
進学先としてオーストラリアを選ぶことには、主に以下のようなメリットがあります。
入学に必要な提出書類が少ない
学部や専攻によって異なるものの、推薦状と志望動機書(エッセイ)を必要としない場合が多いです。
このため、オーストラリア留学は準備期間が短く済みます。特に推薦状は第三者にお願いする必要があり、日本人は推薦状を書くことに慣れていないため、受け取りまでに時間がかかることが多いです。
また、語学スコア証明としてIELTSスコアが必要な場合がほとんどですが、申請時には必要ありません。
私はエージェントのすすめでとりあえずIELTSスコアなしで申請し、Conditional Offer(条件付き合格)をいただきました。
渡豪直前2~3か月の猛勉強(一日約8時間)で必要スコアを取り、無事CoE(Confirmation of Enrolment, 入学許可証)を手に入れました。
そのため、学士号、お金、やる気があればいつでも挑戦可能なのがオーストラリア留学だと思います。
私の中国人の友達にオーストラリアを選んだ理由を聞くと、アメリカは提出書類が多くて準備も半年以上かかって費用も高い、イギリスの修士課程は1年が多く短い気がした、オーストラリアはIELTSスコアさえ取れれば2,3か月で入学できるし、卒業後も滞在できるからと言っていました。
留学生の受け入れ・サポートに積極的
オーストラリアは移民国家であるという背景もあり、留学生の受け入れにとても積極的です。
大学院の教育・研究水準は非常に高いものの、入学者選抜方法のセクションで説明した通り、入学要件に満たない人でも条件付きで受け入れるなど、入口を比較的広げています。
また、オーストラリアで中等・高等教育を受けていない留学生が多数いることを考慮して、無料でアカデミック英語講座や、文献の探し方・論文の書き方などを教えてくれる学内サービスも充実しています。
実際筆者も卒業研究論文を書いていた時期、大学図書館が開催している文献の探し方講座と、理系学部が主催するデータ分析ツール「R」の初心者向け講座を受講していました。
こういった機会は私もあまり知らず、論文監督の教授に教えてもらって初めて知りました。積極的に宣伝していないことも多いですが、多くの大学でこういった機会はたくさん提供されています。
異文化に寛容な多文化共生社会、日本人も多く安心
上でも触れた通り、オーストラリアは世界中から移民や留学生が集まってできている国です。
異なる文化に日々触れているオーストラリアの人々は、自分のものと違う食べ物、習慣、考え方に寛容で、当たり前の日常として受け入れている印象があります。
筆者の住んでいたオーストラリア第三の都市・ブリスベンにはイート・ストリートという、週末限定で開く世界中の料理が集う場所がありました。日本食はもちろん、アジアやヨーロッパ各地の料理やパフォーマンスが楽しめ、いつもオーストラリア人・外国人問わず人でごった返していました。
多文化というのにはもちろん日本も含まれており、特にシドニー、メルボルン、ブリスベンといった主要都市には日本人の永住者・留学生が大きなコミュニティを形成しています。
日本食、日本語やアニメ・マンガなども人気で、日本や日本人に良い印象を持っている人が多いです。筆者も在学中、日本人だというと昔習った日本語で頑張って話してくれたり、日本に旅行した時の写真を見せてくれたりする人が多く、嬉しかったです。
治安の面でも日本とほぼ同じような感覚で、安全に暮らすことができます。
筆者の大学は図書館が24時間オープンだったので、遅くまで勉強して帰ることもざらでしたが、深夜でもバスが動いており、安全に帰宅することができていました。
温暖な気候
夏は日差しが強い日がありますが、湿度が低いため日本のようにあまり暑さは感じることは少ないのもメリットの1つです。
また、冬に雪が降るところは限られており、生活しやすい環境です。
オージーは総じてビーチ好きで、冬でも天気が良い日はビーチ沿いのウォーキングを楽しんでいます。
時差が少ない
広い国のため、国内でも時差がありますが、日本との時差は少ないです。
シドニーとの時差は1時間(サマータイムは2時間)、アデレードは30分(サマータイムは1時間半)となっています。
時差が少ないため、到着時の時差ボケはありません。また、日本にいる人との電話もアメリカやイギリスに比べると簡単です。
学生ビザでも労働が可能で、費用の捻出がしやすい
先に書いた通りオーストラリアでは学費も生活費も日本より高額となるため、留学を考えたとき真っ先にお金が心配になる人も多いでしょう。
しかし、オーストラリアの大学院に行くために必要な学生ビザ(student visa subclass 500)は、世界でも珍しく就学中かなりの労働が許可されています。
現在はパンデミックの影響で無制限に労働が許可されていますが、2023年7月からは元の制限である「2週間で40時間以内」のアルバイトが許可されます(参考:Department of Home Affairs)。
オーストラリアの賃金は世界でもトップレベル(最低賃金が時給1800円程度)であるため、在学中の限られたアルバイトでもまとまったお金を稼ぎやすいです(参考:Fair Work Ombudsman)。
筆者自身は日本で働いていた会社の仕事をそのままオンラインで続けていたので現地アルバイトはしなかったのですが、日本人の友人たちには日本食レストランで働いたり、日本語学校でインターンをしたりしている人がいました。
さらには奨学金制度も充実しているため、これらも活用すれば留学費用の捻出がかなり楽になるはずです(奨学金の詳細は下記「奨学金について」を参照ください)。
卒業後も現地で就職が可能
せっかくオーストラリアの大学院に行くのだから、卒業後も残って現地で就職したい、と考える人も多いのではないでしょうか。
オーストラリアの大学院を卒業するとTemporary Graduate Visa(卒業ビザ)に申し込むことができ、承認されれば2~4年、オーストラリアに残ってフルタイム労働に従事することができます。
実際、卒業後はこのビザを活用してオーストラリアで就職、数年働いたのち帰国というパターンの人も多いです。ビザの期間や要件などの詳細はオーストラリア政府サイトをご覧ください。
海外での就職やキャリアチェンジを目的に院進学したい人にとって、卒業後も現地に残る道が整っているのは強みになるでしょう。
ただし、最低2年間(92週間)のコースを修了している、政府が指定する職業リストに関連した学位であるなど、条件があるため注意が必要です。
オーストラリア大学院留学のデメリット
一方で、オーストラリアを選ぶことには、主に以下のようなデメリットもあります。
サービスの質が低いことがある
のんびりとした国民性のため、日本のような質の高いサービスは期待できないでしょう。対応する人によって言うことが違う時があり、筆者は病院や保険会社で困ったことがありました。
大事な場面では、事前に情報収集をしておく、友人に付き添ってもらうなど対策をしておく必要があります。
紫外線が強い
オーストラリアの紫外線は日本の6~7倍と言われ、皮膚がんの発症率も高いです。
友人のご主人や大家さんも皮膚がんにかかったことがあり、身近な問題だと感じることが多いです。筆者の子供の小学校でも、休み時間の外遊びでは必ず帽子をかぶるように言われていました。
紫外線対策は、日本に住むよりも徹底して行わなければなりません。
外食が高い
日本のすき屋やサイゼリアのような低価格のチェーン店はなく、現在は円安や物価上昇もあることから、外食は非常に高価です。
自炊をすれば節約可能で、筆者もオーストラリアに来てから料理の腕をあげることになりました。
これはオーストラリアに限らず、アメリカやイギリス等でも同じことが言えますが、外食の高さには気を付ける必要があります。
公共交通機関が不便
シドニー、メルボルンの大都市以外は公共交通機関の本数が少ないことが挙げられます。そのため、車のない生活は難しい地域も多くあります。
大学のそばに住んでいる留学生は、車を持っていない人が多い印象があります。
車の売買のハードルが高い
新車、中古車ともに値段が高い傾向にあります。ディーラーでも購入できますが、割高なため個人売買が一般的です。
見知らぬオーストラリア人を相手に交渉し、古い車だと購入直後の故障などトラブルもありえるため、注意が必要です。筆者は、日本語のサイトに掲載されていた中古車を日本人から買い取りました。
少々値が張っても、年数が新しく走行距離が短い車を購入し、帰国時に同じぐらいの値段で売るのがおすすめです。
オーストラリアの大学院探し編
さて、ここからはオーストラリアで院進学したいと思った時、申し込みたい大学・プログラムを絞っていくためのステップをご紹介します。
勉強・研究したい分野の明確化
まずは、自分が何をしに院に行くのか?を明確にする必要があります。
オーストラリアに限らず、大学院というのはただ知識を受動的に与えてもらう場所ではありません。自分の学ぼうとしていること、研究しようとしていることを自覚して、それを実現するために主体的に授業や研究に参加しなければいけません。
ビジネス系の学位であればさらなるキャリアアップのため、IT系の学位であれば海外でエンジニアになるためなど、留学の目的をはっきりと言語化しておきましょう。
そのうえで、「オーストラリアの大学院の特徴」でご紹介した通り、コースワークかリサーチかを選びます。
リサーチは研究・アカデミック界の進路を考えている人向けであり、入学時にも研究経験が求められます。日本の4年制大学を卒業した人はコースワークを選ぶのが一般的です。
大学ランキング・学費・カリキュラム等で大学を比較・絞り込み
学びたい分野がある程度固まったら、その分野の修士(Master’s degree)や博士(Doctorate degree)課程を提供している大学を探しましょう。
「Australia master of(分野)」などと検索すると主要な大学院やプログラムがヒットする他、Study Portals (https://www.mastersportal.com/?redirect=false)、Educations.com (https://www.educations.com/)、Masterstudies.com (https://www.masterstudies.com/) などといった比較サイトを活用すれば、自分の希望分野のプログラムがある大学を学費や在学年数などで見比べることができます。
希望する予算や期間のプログラムがあれば、各大学のウェブサイトでどんな入学要件が課されているか、どんな講義が提供されているかなどを調べられます。
こういった情報を活用して、自分の学びたいことを希望の予算・期間・入学要件の範囲で実現できそうな大学を数校に絞っていきましょう。
場所や治安、日本人数などのチェック
最後に、候補の大学に通うことになった場合の生活面もしっかり考慮しましょう。
その大学がある都市・地域の治安、交通の便や物価のほか、日本人の数なども調べると、自分にとって暮らしやすい場所かどうかの判断材料になります。
前述の通りオーストラリアは全国的には治安が良く、シドニー、メルボルン、ブリスベンなどの主要都市であれば日本人もたくさんいます。
とはいえ、大学キャンパスは広大な場所が必要なため郊外に位置していることもあるので、その周辺に暮らして毎日キャンパスへ通うことを想定して下調べをしましょう。
出願準備~出願編
自分の希望分野・予算や期間に合う大学が数校に絞れたら、いよいよ出願の手続きを始めます。
ここでは、大学院への出願の準備から提出までのステップをご紹介します。
出願要件・〆切の確認
まずは、出願するプログラムへの出願に求められる要件(entry requirementsなどと呼ばれます)を確認します。
「入学者選抜の方法・難易度」で解説したように、一般的にクリアすべき要件は卒業した大学の成績と英語力の2点ですが、プログラムによっては追加で職務経験(professional experiences)や推薦状(recommendation letter)が求められることもあるのでよく確認しましょう。
その後は、出願の〆切日を確認します。一般的に第1セメスター(2月)入学なら前年の11月~12月、第2セメスター(7月)入学なら同年の4月~5月が〆切とされていることが多いです。
日本と違って入試がない上、多くの大学は完全オンラインで出願できるため、かなり入学直前まで受け付けてくれるのですね。とはいえ、後述のように書類をそろえるのに時間がかかることもあるため、遅くても入学の1年前には動き始めるようにしましょう。
必要書類の確認・入手・提出
出願要件が確認できたら、それを証明するための提出書類もセットで確認します。
大学の成績の証明にはたいがい、卒業した大学が発行する学位証明書(Award certificate)と成績証明書(academic transcript)が求められます。
これらは卒業した大学に依頼して発行してもらう必要があるほか、日本語のものしかない場合、公的に英語翻訳したものが必要です。さらに、そこに載っているべき情報(GPAの計算方法など)も指定されていることが多いので、必ず指定の情報が載った証明書を発行してもらいましょう。
英語力の証明に関してはIELTSの成績証明書(IELTS Test Report Form)が必要になります。まだ受験していない、もしくはスコアが足りない場合は早めに要求スコアを獲得しましょう。
ただしIETLSスコアの有効期限は2年なので、あまりにも早く受けすぎると出願時に期限切れとなるため注意です。IELTS成績証明書は受験後1週間~2週間程度で発送されるので、届いたら大事に保管しておきましょう。
スコアの提出方法はプログラムや、どのテストのスコアを送るかで異なることがあります。
筆者の卒業した University of Queensland は、「IELTSは成績表のコピーを提出、TOEFL iBTは主催団体であるETSから直接、大学へ成績表を送付するよう依頼するように」と指示しています。
筆者はIELTSを提出したので、オンライン出願の際、手元の成績表をスキャンして提出するだけで大丈夫でした。TOEFL iBTを提出したい場合、ETSからの直接送付を求められるため注意が必要です。
職務経験が求められる場合は履歴書(レジュメ)などが要件になることが多いです。
当然英語で書くことになりますが、フォーマットや載せるべき情報をよく確認して、レジュメ作成ツールなどを活用して作成しましょう。
卒業した大学の教授や、以前の職場の上司からの推薦状が求められている場合、これもフォーマットや情報が細かく決められていることが多いのでウェブサイトで確認しましょう。
教授や上司は忙しいことも多いですから、直前にお願いすると相手の迷惑になるだけでなく、出願に間に合わない可能性もあります。よく調べて、数か月は時間に余裕をもってお願いしましょう。
エージェントの利用について
上のような出願手続きは全て大学の入学希望者ページに詳しく説明されているため、自力で行うことは十分可能です。
とはいえ、すべて英語での手続きで間違えずにできるか不安、という人もいるでしょう。そういう人は、留学エージェントを利用するのも手です。
オーストラリアは日本人にもメジャーな留学先であるため、出願手続きや合格後の保険・ビザ申請をサポートしてくれるエージェントが多くいます。その際、大学公認の提携エージェント(representative agent)を選ぶと安心でしょう。
大学公認エージェントは、各大学の “future students” (入学希望者) や “contact”(連絡先)などといったページ内に記載されています。
筆者の母校 University of Queensland の場合、Contactというページに “Find an agent”という項目があり、そこから自分の国の公認エージェントを探せるようになっています。
ページがすぐ見つからなくても、”(大学名)representative agents” などと検索するとすぐにヒットすることが多いですので、ぜひ確認しておきましょう。
奨学金について
金銭面で不安がある場合、奨学金を活用することもできます。
日本の公的機関(日本学生支援機構や文部科学省など)の奨学金は「貸与型(要返済)」も多いのに対し、オーストラリアの大学が提供する奨学金は「給付型(返済不要)」が多いです。ただ当然、入学前の成績や英語力の要件も厳しく、応募者が多いため競争率も高くなります。
ただ、出願するだけで自動的に選考の対象になる奨学金も多いほか、自分の成績や英語力が基準を満たしている奨学金がある可能性もあるので、まずはどんな選択肢があるか調べる(大学ウェブサイトにscholarshipなどという項目があります)価値は大いにあります。
奨学金の形態としては授業料の25%や50%を免除するものや、在籍中に一定額(数十万円~数百万円)が支給されるものなどが主流です。
申し込む時期も奨学金によってまちまちで、前述のように出願した時点で自動的に考慮されるものもあれば、合格通知到着~入学までのタイミングに申し込むもの、入学直後に申し込むものなどがあります。
奨学金の出願にはこれまでの成績と英語力の証明のほか、志望理由書(personal statement)や履歴書(CV/resume)、自分の学業成績をよく知る人物からの推薦状(recommendation letter)などが求められます。
検討する場合、出願準備と並行して自分の成績・英語力で出願できそうな選択肢をリストアップし、それぞれの申し込みの〆切日と、必要書類を整理して準備を進めましょう。
出願後の注意点
条件付き合格をもらったら
出願時点でまだ大学を卒業していない、英語力が基準を満たしていないなど、出願基準の一部をクリアできていない場合、Conditional Offer(条件付き合格)が出ることがあります。
そのような場合、条件の内容によって、主に以下のように手続きを進めます。
(1)出願時点でまだ大学を卒業していなかった(卒業見込みだった)場合
大学を卒業した後、改めて学位証明書を提出すればConditional Offer(無条件合格)に切り替えてもらうことができます。
筆者も学部在学中に出願したので最初は条件付きとなり、3月の卒業後、追加で学位証明書を提出して無条件合格をもらいました。
(2)英語力が不足している場合
条件の内容は個別のケースによって異なり一概には言えませんが、代表的なものだと「期限までに基準を満たす英語スコアを再提出すること」や「大学の指定する英語コースを受講すること」 などの条件があります。
合格後手続きの注意点
大学院への出願〆切から1~2か月後、入学資格ありと判断されると合格通知(offer)がオンラインで届きます。入学までの手続きで必須になる書類のため、必ず保存しておきましょう。
合格が出た後の手続きの流れは、まずオーストラリアへの全留学生が加入を義務付けられている保険(Overseas Student Health Cover, OSHC)への加入を行います。これが済まないと学生ビザを申請できないため、忘れずに加入しましょう。
保険加入が済んだら学生ビザの申請を行います。すべてオンラインで完結するため大使館などに行く必要はありませんが、ビザの申請から発給までに数週間はかかることがあります。合格通知が来次第、できるだけ早く保険加入~ビザ申請を済ませましょう。
まとめ
今回はオーストラリアの大学院の全体的な特徴、大学探し~出願までの流れ、オーストラリアの大学院で学ぶメリットなどをご紹介しました。
オーストラリアの大学院は非常にレベルの高い教育・研究を提供していながらも、海外からくる留学生を積極的に受け入れ、サポートする懐の広さがあります。
また自分と全く違うバックグラウンドを持つ世界中の人々と暮らし、学べる環境はとても刺激的で、日本人からも留学先としてとても人気があります。
物価や学費などの壁はあるものの在学中にアルバイトができたり、様々な奨学金があったりと金銭の工面ができる機会が多くあります。
さらには卒業後も現地に残って経験を積めるビザ制度もあり、さらなる挑戦のチャンスがあるのも魅力です。
一方でこうした価値は、「何を学んでどうなりたい」という具体的なビジョンをもって自分から学んで初めて得られるものです。
オーストラリア留学を考え始めた人は、大学探しやプログラム探しと同時に、自分が進学する明確な動機をしっかり言語化するところからぜひ始めてみましょう。
[…] なぜ私がオーストラリアの大学院留学を選んだのか?特徴と生活 […]
この春から フリンダース大学院に条件付き入学を許可されました。不安でいっぱいですが フリンダースにしてよかったと思えたブログ ❓でした
こんにちは!コメントありがとう。まずは、合格おめでとう!留学してからも色々新しいこと、チャレンジもあると思うけど、頑張ってね!応援しているよ!
にゃんこ先生
先生のブログのおかげでTOEFLとGREで目標のスコアを取れました(ギリギリですが)。
ありがとうございます。
いよいよ出願先の大学院を絞り込もうとしているのですが、改めて色々な国の様々なプログラムを比べてみると、人気の高いアメリカやイギリスの大学院が必ずしも充実しているわけでもない(しかも費用は高い)ような気がしています。
日本では学べる大学院があまりない理系のニッチな分野なのですが、米英の有名どころの大学院のサイトを見ても、
– あまり売りがない(”internationally renowned”の類ばかりです)
– 選択科目が充実していない
– 必修科目の内容の説明も薄い
– この分野では重要なツールが3つくらいあるのですが、そのうち1つしか扱わない
といった感じで、オーストラリアや、日本では無名で大学ランキング上位でもない欧州の小国やアジアの大学院のプログラムの方がむしろ充実している印象です。
私はネームバリューを求めているわけではなく国にこだわりがあるわけではなく、ただベターな環境で思い切り学びを深めたいと思っているのですが、アメリカやイギリスとそれ以外では教育レベルや環境に差があるものでしょうか(例えばインドのITや、西欧の芸術系や哲学など、特定の地域が特に強いと思われる分野もありますが、私の分野はそのような分野ではありません)。
分野にもよると思いますが、アメリカやイギリスに比べ、オーストラリアなど他地域の教育水準はどうなのか、印象など教えていただけないでしょうか。よろしくお願い致します。
TOEFLとGREの目標スコアが取れておめでとう!
特にネームバリューや国にこだわりがなければ、ご自身の専攻と生活環境から志望校を絞ると良い。
プログラムの充実度やカリキュラムの内容も重要だけど、科目やゼミ指導を担当する教授陣のレベル(この分野で有名で研究実績が豊富な教授がいるのか)もポイントになる。
自分の研究分野に合致している有名な教授の元で学べるなら、ランキングの高くない大学でも行く価値がある。
志望専攻が分からないので具体的なアドバイスは難しいけど、オーストラリアのG8、オランダ、カナダ、香港なども、英米に負けない教育を提供している大学がたくさんあるので、ぜひ調べてみてね。
にゃんこ先生
アドバイスありがとうございます!
(下さったコメントに「返信する」を押しても返信できないようですので、新しいコメントになってしまっていると思います)
そうなんです。プログラムが充実しているように思えるのがまさにオーストラリアとオランダ、そして政治環境的に疑問はあるものの香港の大学なのです。
教授は「希望の教授から学べるとも限らないし…」と盲点でしたが、レベルは重要ですね。
よく調べてみようと思います。重ねてありがとうございました。
にゃんこ先生
6月に志望校の絞り方についてアドバイスいただいた者です。
おかげさまでその後、オーストラリアのG8の1つからオファーをいただくことができました。重ねてありがとうございました。
ただ、学費や生活費が予想以上に高額になりそうで、容易に賄えそうにありません。オランダの大学院なら費用面は何とかなりそうですが出願期間がまだ先で、オーストラリアからのオファーも当分保留にしておけるようですので、もう少し考えたいと思います。
さて、改めてご相談なのですが、TOEFLやGREは目標スコアを取れはしたものの、これらはパターンが決まった試験で、このまま大学院でのディスカッションやプレゼンテーション、レポートや論文に対応できるとは思えません。これらに対応できるよう勉強を継続したいのですが、どこから始めればよいか、おすすめの教材や方法などアドバイスいただけないでしょうか(意外に情報が少なく、ひとまず専攻の分野については用語を覚えたり概念を英語で説明できるよう努めているところです)。
よろしくお願い申し上げます。
お〜〜〜合格おめでとう!!
勉強を継続されていて偉い!!本当に、おっしゃる通り、TOEFLやGREとかいくらスコアが取れても、実際の留学生活になると最初はショックを受けるんだよ。
ここまでに来ると、教材とかでの勉強は足りないので、まず1)リスニング力を最大限に伸ばすこと。ディスカッションに入れない多くの理由は、他の人が何言っているかわからないから。2)スピーキングは、オンライン英会話で難易度の高いトピックを選んで講師とディスカッションしていくことで磨けいける。
ただ、これらのことをすごく頑張ってやっても、思う通りに大学院の勉強に対応できるわけではなく、最初は相変わらずショックを受けると思う。海外大生活の中で磨かれていくことが多いので、その成長は楽しみだね!