終身雇用の時代が終わり日本でも転職が当たり前になりつつある中、キャリア形成のために海外MBAの取得を検討している人もいるでしょう。
しかし、留学生全員が会社を辞めて転職を目指しているわけではなく、勤務先に在籍しながらMBAを取得できる社費留学を選択している人もいます。
私も駐在員として海外で働く難しさを経験して、グローバルな環境でも通用するマネジメントスキルを養うために社費留学に応募しました。
本記事では、MBA留学を検討している人に向けて、私の実体験を踏まえて、社費留学の概要やメリット・デメリット、社費留学生に選ばれる人の特徴について解説していきます。
残念ながら私自身の結果は最終面接で不合格に終わりましたが、選考を通じて経験したリアルな情報をお伝えしていきますので、ぜひ参考にしてみてください!
この記事の著者:ゆう
日本生まれ日本育ちの社会人、にゃんこ先生の元生徒です。学生時代に英語学習に打ち込むも成果を出せず、入社時点のTOEICは480点でした。今までのやり方を見直して効率性の高い学習方法を追求した結果、TOEIC895点・TOEFL103点を獲得。海外駐在を経て現在も海外に携わる仕事をしています。
監修者:ウメンシャン
日中英のトリリンガル・言語オタク。英語圏留学経験なしからIELTS8.0、TOEFL104、GRE322。コロンビア大学・ペンシルバニア大学・ニューヨーク大学・メルボルン大学教育大学院に合格実績を持つ。慶應義塾大学大学院卒。1児の母。
目次
社費留学の概要
社費留学とは
社費留学とは、企業が選抜した従業員を業務扱いで海外MBAなど留学プログラムに派遣する制度のことです。
企業が留学費用を負担しつつ、卒業後には派遣元企業でリーダーシップを発揮し活躍することを期待されています。
社費留学制度を設けている会社
さまざまな企業が社費留学制度を設けていますが、共通点として「グローバルにビジネス展開をしている大企業」であることが挙げられます。
業種で見ると「コンサル」「金融」「商社」の属する企業が特に多い傾向にあります。
以下は、自社ホームページなどで社費留学制度がある旨を公表している企業の一例です。
コンサルファーム | ボストンコンサルティンググループ、マッキンゼー・アンド・カンパニー、野村総合研究所 |
商社 | 三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠、丸紅 |
金融 | 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、野村證券 |
メーカー | トヨタ自動車、ソニー、パナソニック、日立製作所、花王、資生堂、サントリー |
もし将来的に社費留学に挑戦しようと思っても、勤務先が社費留学制度を設けていなければどうしようもありません。
これから就職活動を始める学生の方々は、出願する企業に社費留学制度があるか事前に確認することをおすすめします。
社費留学の選考プロセス
社費留学の選考プロセスは企業によって多少の違いはありますが、「書類選考→面接→合否通知」という流れが一般的です。
書類選考
書類選考では、海外留学の志望理由を含む志願書に加えて小論文の提出を求められることもあります。
「困難な状況を乗り越えた経験」や「自ら業務課題を見つけて解決した経験」といったテーマで出題されて、過去の実績を通じて自分の強みやMBA留学の必要性をアピールします。
なお、殆どの企業において、社費留学制度への応募条件として海外留学に必要な最低限の英語力を要求しています。英語力の確認方法にはTOEFLが採用されるケースが多く、私の勤務先ではTOEFL80点以上が応募条件でした。
面接
面接の回数は、人事部面接の1回のみや役員面接を含む複数回実施するなど企業によって様々です。
しかし、面接の内容は共通して「なぜ海外留学が必要なのか」「なぜ企業はあなたを選ぶべきなのか」を軸にした質問が中心となっています。
ご参考まで、私が面接官から受けた質問を紹介します。
- なぜMBA留学を希望しているのか?
- それは必ずMBA留学でなければいけないのか?
- 具体的に検討している留学先とその理由は?
- 卒業後はどの部署でどのような業務に従事したいか?その中でMBA留学で培ったスキルや経験はどのように活かせられるか?
- あなたが合格した場合、会社はあなたに数千万円単位の投資をすることになるが、この場でアピールしておくことはあるか?
社費留学と私費留学の違い
MBA留学の方法には、社費留学と私費留学の2種類が存在します。
本章では、この二つの留学方法について様々な視点から違いを比較して、それぞれのメリットやデメリットを含む特徴を解説していきます。
社費留学と私費留学の合格率
社費留学生の方が実際のMBA選考において有利に働くという話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
社費留学と私費留学の合格率の差を明示したデータはありませんが、以下のような理由から、実際に社費留学生の方が選考で有利に働く可能性はあると言えるでしょう。
- 社内選考の過程で既に志望動機や自己分析が相応に進んでいる
- 大企業からお墨付きを与えられているため信頼性が高い
- 企業内で社費留学生OBとのネットワークがあり、大学の特徴や選考ノウハウを効率的に取得できる
- 大学はMBA卒業生の就職率の高さを重要視しており、社費生は派遣元の企業に戻ることから就職先が担保されている
- 社費生の学費は企業が負担してくれるため、大学側が負う学費滞納など金銭的なリスクが小さい
私の勤務先にも、毎年のように社費留学生を受け入れているアメリカの某有名大学があります。
あくまで私の推測ですが、過去実績によって同大学から高い信頼性を獲得しており、歴代のOBたちから手厚いサポートも受けられるなど、私費留学生にはないアドバンテージを活用しているためと言えるかもしれません。
社費留学と私費留学の費用
海外MBA留学にかかる費用は地域や留学期間によって大きく異なりますが、一般的に1,000万円〜2,000万円程度は必要になると言われています。
大学に支払う学費に加えて、留学期間中の生活費や渡航費などさまざまな費用がかかるため、どうしても相応の金銭的負担が発生してしまうのです。
社費留学生は、上記の費用負担がゼロになるだけでなく、業務扱いで留学しているため毎月給料も支払われます。私費留学生と比べて金銭面で優遇されている点は、社費留学生の大きなメリットの一つと言えるでしょう。
社費留学と私費留学のキャリア形成
社費留学生は、派遣元の企業からMBAプログラムで培った経営学やマネジメントスキルを発揮して企業の発展に貢献することを期待されています。
卒業後のキャリアは、派遣元企業の経営企画部署に所属し、グローバルな経営戦略策定や新規事業立ち上げなどの業務に携わるケースが多いです。
私の勤務先でも卒業生の多くが、グローバルビジネス全体の中期経営計画の策定や海外企業の買収や業務提携の推進など、企業経営の中枢を担う業務に従事しています。
私費留学生のように在学中に就職活動に時間を割く必要がないため、学業に専念できる点はメリットと言えるでしょう。
一方で、私費留学生がMBAプログラムを通じて習得した個人スキルやグローバルな人脈を活用して新しいキャリア形成を進めていく中、大きく変化しない自身のキャリアに対してジレンマを抱える人も少なくなく、人によってはデメリットと感じるかもしれません。
企業派遣留学の注意事項
前章では、私費留学との比較を通じて社費留学のメリット・デメリットを含む特徴を紹介しました。
一方で、社費留学制度のみに当てはまる注意事項も存在します。
そこで本章では、社費留学制度を検討する上で注意すべきポイントを3つ紹介します。
出願に年齢制限がある
社員であれば誰でも社費留学制度に応募できるわけではなく、多くの企業でTOEFLスコアの足切りラインに加えて年齢制限が設けられています。
一般的には入社4〜5年目から応募資格を得られて、入社9〜10年目が応募資格の上限となっています。
この年齢制限は、本番のMBA選考でも最低2〜3年間以上の社会人経験を応募条件としている点、各校MBA合格者の平均年齢が20台後半から30台前半である点を踏まえて設定されていると推測できます。
さらに、実際に社費留学生に選ばれるのは入社7〜10年目の中堅社員が殆どである点も注意が必要です。
若手社員と比べると社内の業務実績が豊富であり、企業に対する帰属意識もより高いことが主な理由として考えられます。
私の勤務先でも、私が社費留学選考に応募した際に過去3年間の合格者の年次や所属部署を調査しましたが、合格者全員が入社7年目以降の方々でした。
入社3〜4年目の若手社員が社費留学生に選ばれたケースが全くない訳ではありませんが、やはり20代半ばでMBA留学を経験したいと本気で考えている人であれば、社費留学制度に応募しつつも社費のような社内の年齢制約がない私費留学も併せて検討することをおすすめします。
卒業後の転職に制約がつく
社費留学生は、卒業後に派遣元の企業に戻ることを前提としてMBAを取得しますが、法的に転職活動が禁止されているわけではありません。社費留学制度を設けている企業の多くが、卒業後の社員の転職リスクに頭を抱えています。
しかし、社費留学生が派遣元の企業に戻らず転職した場合、企業が支払った学費を自己負担する必要があります。
私費留学生のように予め学費を準備していた訳ではない社費留学生にとって、数百万〜数千万円の学費を一括返済するのは容易ではないでしょう。
MBAプログラムを通じて新しいキャリア形成に興味を持ったとしても転職活動に制約がついてしまう点は、社費留学制度のデメリットとも言えるかもしれません。
社内政治の影響が強いケースもある
毎年ごく一握りの社員しか選ばれない社内留学制度では、多少なり社内政治の影響を受ける可能性があります。
勿論、企業が社内政治の影響があると公言している訳ではありませんが、一例として以下のような影響が働いているケースがあると言われています。
- 社内留学選考を所管している人事部出身の部長がいる部署の社員が選ばれやすい
- 毎年の合格者が特定の部署から選ばれている
- 上記部署間でも公平性を保つために、毎年持ち回りで合格者が出ている
私の周りでも、人事部出身の役員に気に入られていた中堅社員が、直属の上司から社費留学制度に応募するよう指示を受けて、そのまま合格した事例がありました。
役員から一目置かれるほど優秀な社員が合格すること自体に何ら違和感はありませんが、数少ない社費留学生ポストの枠が、社内政治の影響や特定の人物の裁量で決まってしまう可能性があるのも注意すべき点の一つです。
社費留学に合格する人の特徴3選
本章では、狭き門である社費留学選考に合格した人たちに共通する3つの特徴を紹介します。
これらの特徴を満たせば必ず合格できるという訳ではありませんが、いずれも選考プロセスの中でとても重要なポイントです。これから社費留学制度に応募する人は参考にしてください。
TOEFLで高スコアを取得する
多くの企業が社費留学選考への応募条件として、TOEFLスコアの最低ラインを設けています。基準スコアは企業によって多少の違いはあるものの、一般的に70点〜80点の範囲で定められています。
私の勤務先では、合格者の殆どが応募時点で90点以上のTOEFLスコアを取得していました。
海外MBAプログラムを通じてより多くの学びを得るためには、ネイティブ講師の講義を正確に聞きとるリスニング力や他の生徒との議論を主導できるスピーキング力が必要不可欠です。
最低基準スコアで満足せず、1点でも高いTOEFLスコアを取得して英語力の高さをアピールしましょう。
上司を味方につける
社費留学の注意事項でも紹介した通り、社費留学制度の選考過程では社内政治の影響を受けてしまう可能性を否定できません。
この点について多くの人がネガティブに捉えてしまいますが、合格者はその影響力をうまく活用して、上司を味方につけて自分の選考プロセスを有利に進めています。
以下に具体的な取り組み内容の一例を紹介します。
- 業績評価で最高評価を維持し続けて上司にアピールする
- 上司に海外留学を目指していることを伝えて、より大きなプロジェクトにアサインしてもらう
- 過去多数の社費留学生を輩出している部署があれば、上司にその部署への異動を打診する
- 徹底的に自己分析をした上で、上司に書いてもらう推薦文の内容をすり合わせる
上司からの信頼は一朝一夕で得られるものではありません。まずは自分に与えられている業務に全力で取り組み、上司からの十分な応援をもらえるだけの実績を積み上げていきましょう。
将来のキャリアを意識して業務に取り組む
社費留学選考を突破するには、現在取り組んでいる業務と将来希望する業務の間にMBA留学が不可欠であると面接官に納得してもらう必要があります。
企業は社費生に数千万円もの投資をすることになるため、面接官はより具体的にMBA留学の経験を企業の発展に結び付けつつ、その計画を確実に完遂できる人材を選ばなければいけません。
このとき、あなたがどれだけ魅力的かつ具体的な企業の発展に資する計画を提示できたとしても、これまでの業務実績や専門スキルとの関係性が全くなければ、企業はあなたを選ぶ必要性を感じないでしょう。
会社のためになぜMBA留学が必要なのかだけでなく、自分の業務実績やスキルを踏まえて、なぜ企業が自分を選ぶべきなのかを論理的に説明することが、社費面接で必ず問われる「Why me?」の答えに繋がります。
将来社費留学を目指している人は、MBA留学後に従事したい業務との関連性を意識しながら担当業務に取り組み、しっかりと実績を積み上げてください。
もし担当業務が将来希望する業務との関連付けが難しい場合には、先ほど紹介した通り、まずは担当業務で十分な成果を挙げてから上司に関連性の高い業務を担当させてもらうようアピールしましょう。
まとめ
本記事では、社費留学について様々な視点から解説しました。
私自身、過去に社費留学制度に応募しましたが、力不足で不合格となり悔しい思いをしました。
しかし、TOEFL対策を通じて上達した英語力やMBAホルダーの先輩方との議論を通じて見直したキャリアプランなど、社費留学選考に挑戦する中で多くの学びや気づきを得ました。
また、当時お世話になった上司の配慮もあり、私がMBA取得後に行きたいと伝えていた希望部署への異動辞令を受けることもできました。
社費留学制度に応募しても全員が合格する訳ではなく、残念ながら私のように不合格になる人の方が圧倒的に多いのが現実です。
しかし、本気で挑戦して努力した経験は、必ず自分にとってプラスとなって返ってきます。本記事が社費留学を検討している方々の背中を押すきっかけになれば幸いです。頑張ってください!