本稿では、LL.M.の出願を目指す皆さんのために、LL.M.出願の概要を示し、各書類の作成、スケジューリングなどの戦略を解説していきたいと思います。
この記事の著者:まあさ
日本生まれ・日本育ち。法律事務所勤務を経て、高校時代からの憧れだった留学生活を目指し、LL.M.に出願。ハーバードロースクール・NY Bar受験・法律事務所勤務を経て帰国しました。留学準備・留学生活のノウハウをお伝えします。
目次
そもそもLL.M.とは
大前提として、そもそもLL.M.とはどういうプログラムなのかを簡単に押さえておきたいと思います。
LL.M.プログラムは、アメリカ等のロースクールが国外の法曹資格を持っている人を主なターゲットとして提供している、通常1年間のプログラムです。
アメリカで法曹資格を取得しようとする場合には、通常、4年制の大学を卒業した後、3年間ロースクールでJ.D.プログラムを修了した上で各州の司法試験を受けることが一般的です。
LL.M.プログラムは、このような授業過程を提供しているロースクールにあって、主に外国人向けに、1年間、その中から好きな(と言っても単位数や一定の制限はありますが)授業を選んで単位を取ることを認めるプログラムです。
1年間のLL.M.を修了すると、LL.M.修了者としての学位を取得します。
ロースクールは一から法律を学ぶ人に向けてはJ.D.プログラムを提供しているのであり、LL.M.が主なターゲットにしているのは、外国の法曹や、法律関係の業務に従事している人になります。
日本からLL.M.プログラムを目指す人は、弁護士・検察官・裁判官、公務員、企業の法務部員、弁理士の方などが多いと思います。
前述の通り、アメリカの司法試験は原則J.D.プログラムの修了者が受験資格を得られますが、州によって、LL.M.プログラム修了だけでも受験資格が取得できる場合があり、LL.M.プログラム修了者でNY司法試験を受ける人も多いです。
LL.M.出願のスケジュールと準備事項
出願スケジュール
LL.M.は、1年間のプログラムといっても、アメリカの場合、8月後半から9月に学期が始まり、5・6月頃に学期が終了しますので、その期間のプログラムです。
そして、LL.M.プログラムへの出願は、プログラムが開始する前の年の10-12月頃に行い、1-3月頃に合格通知が来ることが一般的な留学準備のスケジュールとなります。
出願にあたって必要なこと
それでは、具体的に出願にあたって必要なことを見ていきましょう。
LL.M.出願にあたって必要なのは、大きく分けると以下の通りです。
- 出願校を決める
- 各学校の出願要項を確認する
- TOEFLの点を取る
- LSACの準備を整える
- 出願書類を作成する
なお、出願にあたって奨学金等を検討する方もいると思いますが、それについてはこちらでは割愛します。
ですが、出願書類よりは早く締め切りが来るものもありますので、必要な方は、ぜひ早めにチェックを始められることをお勧めします。
LL.M.の出願校を決める
まず、LL.M.に出願するとなったら、どこの学校に出すかを決める必要があります。
ここでいう出願校というのは、第一志望だけではなく、滑り止めとして受ける学校も含めて、出願する全学校を絞り込んでおく、という作業になります。
この作業は、実際の書類の準備が始まってから並行して行うと大変ですし、また、これを行う前提としての考え・情報がまとまっていると、出願書類の準備も進めやすくなりますので、時間がある夏の間から少しずつ考え始めておくことがお勧めです。
逆に、出願書類の準備に追われながら出願校の絞り込みを行うのは大変で、結果的に作る書類のクオリティに影響を与えかねませんので、今年出願すると決めている人は、ぜひ早め早めにできることからやっていくことが大事です。
とにかくたくさん出そう、とか、どこでもいいから引っかかれば、と思っている人もいるかもしれませんが、1年間勉強する場所であり、暮らす場所でもあり、本当にどこでもいいと思える人は稀ではないかと思います。
また、各学校それぞれ当然のことながら出願費用もかかりますので積み重なれば馬鹿になりません。
そして何より、出願書類は一校作ればある程度焼き直しで準備していけるとはいえ、完全にコピペでできるわけではありませんので、一校一校それなりの手間がかかると思って下さい。
そのため、出願校は合理的な範囲で絞っておくことが必要です。
出願校を決める前提として、最低限以下の2つが必要です。
- 各学校についてできる限りの情報収集をする(相手を知る)
- そもそもなぜLL.M.に行きたいか考える(自分を知る)
a) 情報収集
まず、学校側の情報収集です。
一般的な情報
まず、一般的な情報としては、LSAC(Law School Admission Council)という組織がオフィシャルガイドで、各学校について比較的コンパクトにまとめが書かれています。
主にJDを想定した内容ですが、並べて何校か見てみると学校の特色が多少見えてくると思います。
また、少し古いですがハードで出版されていたものも入手できると、気になるロースクールを並べてざっと比べることができると思います。
ランキングと学費
また、毎年更新されるLaw schoolのランキングとして代表的なものはこちらになります。
学校 | 学費 | |
1 | Yale University | $66,128 |
2 | Stanford University | $64,554 |
3 | Harvard University | $67,081 |
4 | Columbia University | $72,465 |
5 | University of Chicago | $66,651 |
6 | New York University | $68,934 |
7 | University of Pennsylvania | $67,998 |
8 | University of Virginia | $66,200 |
9 | Northwestern University | $66,806 |
10 | University of California–Berkeley | $55,346 |
参考:US News 2021 Best Law Schools
これも主にJDを想定してのランキングですが、アメリカの世間的な各ロースクールの評価のひとつの目安にはなるでしょう。
日本での知名度とは必ずしも一致していないこともわかるかと思いますので、一見の価値はあります。
個別の学校の情報
個別の学校の情報収集は、①学校のウェブサイト、②友人知人先輩の話、が主なソースになると思います。
- 学校のウェブサイト
出願するロースクールのウェブサイトについては、特にLL.M.プログラムについての部分、出願要項についての部分については、最終的に出願するまでにはしっかりと目を通しておく必要があります。
ここに目を通すと、
ロースクール自体やLL.M.プログラムの規模
(何人くらいの生徒がいるか。150人規模のLL.M.と20人規模のLL.M.では雰囲気はだいぶ違いそうです。)
特徴
(例えばLL.M.プログラムの最後に論文が課されるかどうか。)
などがわかります。いくつか学校を並べてみると力を入れてそうな分野などが見えてくることもあると思います。
また、
各ロースクールのコースカタログ
(全ての授業の講義要項みたいなもの。自分の行く年のはありませんが、現在やっている授業の一覧と詳細は分かります。)
教授陣のプロフィール
(Facultyという項目がだいたいあると思います)
についても、ざっと目を通し、自分の興味のありそうな授業・教授はチェックしておくべきです。
逆に、そのような授業・教授が全くないロースクールについては、出願すべきかどうかを再検討すべきでしょう。
- 友人知人先輩の話
次に、可能であれば手に入れたいのが実際各校のLL.M.に前年又はある程度近年に行った人の体験談です。
年が近ければ、どの授業が面白いとか、どの教授が評判が良いとか、そういった具体的な情報を得ることができます。
また、LL.M.全体の雰囲気、その都市の生活環境なども教えてもらうことができると思います。
さらに、留学生同士は、同じ職場(法律事務所や商社など)から別々のLL.M.プログラムに同時期に行くことも多く、つながっていることもあります。
誰かひとり知り合いがいれば、気になるロースクールに行っている先輩に話を聞きたいと繋いでもらうこともできると思います。
b) そもそもなぜLL.M.に行きたいか考える
これも就職活動と似ていますが、学校について情報収集を進めると同時に、自己分析を始めます。
そもそもなぜLL.M.に行きたいのか?最終的にこの問いにきちんと答えられることが、筋の通ったPersonal Statementを書くことの鍵になります。
ですので、この問いを志望校決定の段階から意識しておくことは大事なポイントです。
ですが、多くの方は、Personal Statementに書くような表向きの理由だけでLL.M.に行きたいというわけでもないのではないでしょうか。
海外で暮らしてみたい、英語を上達させたい、外国人とのネットワークを作りたい、仕事でLL.M.を取っておくことが必要だから、等々、様々な本音の理由もあるでしょう。
志望校の絞り込みにおいては、表向きの理由と本音の理由と、両方並べて、
①少なくとも自分がLL.M.を目指すにあたって絶対譲れないことは達成できる場所
かつ、
②どうしても無理な事情がない場所
を選び出すことになります。
多くの人は、候補先を選定する段階で無意識に①②のエクササイズをしています。
例えば、私の場合は、①アメリカに住んでみたかったので、シンガポールなどで取れるLL.M.は完全に対象外でした。
②私はペーパードライバーで運転は大の苦手でしたので、アメリカの都市のなかでも車が必須なところは暮らしていく自信がないので避けました。
そのようにして出してきた候補先のうち、実際に出願する学校をどこにするか、と考えるときには、この判断を意識的に行っていきます。
そして、その判断にあたって、最初に行った各学校の情報を使っていきます。
例えば、①ビジネス寄りの経歴・キャリアプランの方は、そういった科目が強い学校を選ぶ方がよく、政府系に強いとされるロースクールは除外した方がいいかもしれません。
自分の専門分野の第一人者のいる学校で志望校を絞り込んだり順位付けすることもやりやすくなるでしょう。
また、②英語がすごく苦手、という人は少人数で発言がたくさん求められるというLL.M.はやめとこう、という判断もあるかと思います。
各ロースクールの出願要項を確認する
出願校をある程度絞り込んだら、次に、各学校の出願要項をまとめて確認しておきましょう。
実際にその年の出願要項は、秋になってから更新されるのが通常のスケジュールかと思います。
毎年の出願要項がそんなに大きく変わることは少ないので、少なくとも時間軸的に早めにすべき準備事項に関連してくる★印のポイントについては、夏の間にチェックして目星をつけておくのがお勧めです。
チェックポイント
- 出願のときに必要な書類は何があるか
通常要求されるのは、Application Form、レジュメ、パーソナルステイトメント、推薦状、大学の成績、TOEFLスコアです。これ以外の特殊なものがないかどうかチェックしておきましょう。
- ★TOEFLの必要スコア
(セクションごとのミニマムスコアを設定している学校もあります。併せてチェック)
- ★推薦状の必要な通数・属性
(Academicでなければならないかどうか)・送付方法(LSACか・別のOnline submissionか・郵送も可能か)
- 出願の〆切
- LSAC(後述)使用が可能か・必要か
- アプリケーションフィーの支払い方法
クレジットカード決済可能な学校がほとんどだと思いますが、稀に郵便為替(Postal Money)など異なる方法が要求される場合があります。
これらの情報は、変わることもありますので、実際の出願にあたっては、秋ごろにアップされる出願年の情報を必ずチェックして、そちらに基づいて実際の準備を進めるようにして下さい。
TOEFLの点を取る
TOEFLの攻略方法については詳細は本稿では触れません。
スケジュール的なことを言うと、TOEFLは、夏の間、実際の出願書類の作成などの作業が始まる前に最低限必要なスコアをクリアしておくことが望ましいです。
出願書類の準備は初めてやる場合にはそれなりに大変ですから、海外経験ありですとかTOEFLに全く問題がないという人を除いて早めに準備しておく方がよいでしょう。
但し、年単位で早く取ってしまうと有効期限の問題がありますので、その点はご注意下さい。
LL.M.において要求されるTOEFL スコアは100点が一般的ですが、中には105点やもっと高いスコアを要求又は推奨とする学校もあります。
また、100点は100点でも、各セクションミニマムを設けている学校もあり、スピーキングが弱くリーディングで稼いでいる典型的な日本人受験生にとっては厳しい条件の学校もあり得ます。
他方で、先輩方の話を聞いてみると、実際には要求されるスコアを満たしていなくても、夏に英語のサマースクールに通うことを条件としてAdmissionが出るという運用もあるようです。
志望校がこのような柔軟な運用をしているかどうか確認しておくのもいいですが、まずは要求されるTOEFLスコアを満たして出願に臨むことを目標すべきでしょう。
» 【100点突破続出】TOEFLおすすめ参考書と勉強法完全MAP
LSACの準備を整える
a) LSACとは
LSAC(Law School Admission Council)は、LSAT(JDを目指す学生が受ける共通テスト)の運営など、ロースクールの出願に関するオンライン手続を統括する各大学からは独立した組織です。
LL.M.出願にあたって利用するのは、LSACのCredential Assembly Service(CAS)というサービスです。
簡単に説明すると、各出願者がLSACにアカウントをつくり、LSAC宛に自分の大学の成績やTOEFLスコアを送っておきます。
各出願者がロースクールに出願する際には、LSACのアカウント番号をアプリケーションフォームに記載し、ロースクール側は、LSAC上で出願者の成績・TOEFLスコア等の情報を閲覧することができます。
そうすると、出願者としては各学校にそれぞれ成績やTOEFLスコアを送付する手間が省けるというわけです。
LSACのアカウント作成にはフィーがかかりますが、TOEFLスコアレポートや成績証明書の発行にも郵送にもコストがかかりますので、何校も出願する人は、LSACのアカウントを作った方がお得で安心です。
また、ロースクールによってはLSACが要求されている場合もあります。
b) LSACに大学等の成績を送っておく
便利なLSACですが、1回は自分の情報をLSACに送らねばなりません。
LSACに日本から大学の成績を送っても、それがLSACに到着し、LSACがあなたのアカウントと情報をマッチさせ、アカウントに情報が反映されるのには一定の時間がかかります。
アメリカの一般的なスローな処理に比べるとかなりスピーディという印象ではありますが、それでも郵送だけ考えても多少は時間がかかります。
LSACのFAQでは2週間を処理の目安としていますが、10月から2月の繁忙期はそれ以上にかかる可能性ありとしています。
ですから、出願ぎりぎりになってLSACに情報を送っても、それがLSAC上反映されていないと、出願したロースクールがLSACを閲覧しにいった時点で必要な情報が入っていない、ということになりかねません。
大学の成績はTOEFLと違ってもう変わるものでもありませんから、これも、時間のある夏の間にやっておくのがよいでしょう。
大学の成績は、各大学によりますが、成績証明書を発行してくれるところに行って、LSAC上で指定された住所に英文の成績証明書を郵送してくれるように手配します。
大学から直接送ってもらえない場合には、封筒に入れてもらったものをさらにFedexなどの封筒に入れて差出人を大学名として自分で郵送しましょう。
Fedexでなくても構いませんが、必ず追跡サービスの付いた手段で送付します。
なお、これらの手配をする際に、自分の控えとして、一通英文の成績証明書を用意しておきましょう。Application Formを記載するにあたり、GPAを計算したり、大学の成績の説明を書く必要がある場合があります。
弁護士・裁判官・検察官の場合には、司法研修所の成績も送る必要があります。こちらは、司法研修所に問い合わせるとやり方を教えてくれますので、指示に従って下さい。
また、司法研修所の成績は自分でも見たことがないと思いますので、この際に、一緒に情報開示請求をしておくとよいでしょう。
どのような成績が送られていくのか、自分の立ち位置を知っておくのは有益です。
教官から推薦状をもらおうと思っていたけど、思ったよりひどい成績だった、ということもあり得ます。
c) LSACにTOEFLスコアを送る
TOEFLスコアの送付は、自分のTOEFLのアカウントから、スコアレポートの送付でLSACを選択すればよいので、オンライン上でリクエストは完結します。
他方、タイミング的には、TOEFLスコアの送付は大学の成績と違って注意が必要です。
LSACは、送られてきたTOEFLのスコアレポートは削除しません。新しいものが送られてきたとしても、前のものは消えず、全てのレポートが表示されます。
ですので、悪いスコアのものを前もって送っておくというのはあまり得策ではないと思います。一番良いスコアを1回だけ送るのがベストです。
そのためには、TOEFLスコアは早めに取っておくというのが一番なのです。
そうはいってもそんなに理想的に進められず、と秋になってからTOEFL受けている人がほとんどだと思いますが、その場合でも、できる限り要件は満たしたスコアを出願から時間的余裕をもって送る、というのを目標にがんばって下さい。
LL.M.の出願書類を作成する
これまでの準備を終わらせたら、いよいよ各書類の準備です。ここからは、LL.M.出願にあたって準備すべき各書類の内容・作成方法を解説します。
一般的に、LL.M.出願にあたっては、以下の書類が必要です。
- Application Form
- レジュメ
- パーソナルステイトメント
- 推薦状
- 大学の成績
- TOEFLスコアレポート
ですが、上記はあくまで一般論であり、上記でも記載しましたが、実際の書類を作り始める前に、志望する各学校の出願のために何が必要か、正確に把握しましょう。
該当箇所をエクセルなどで一覧表にしてまとめておくと便利です。
各学校で、必要な書類について、細かな条件が設定されている場合もあります。
例えば、レジュメのページ数や、Personal Statementのページ数(ダブルスペース等の様式の指定もあり得ます)、成績についてランキングの説明、推薦状についてどのような人から何通もらわなければならないか、など。
書類の作成をし始めてから、見落としていた条件に気づいたりしないよう、各書類に課せられている条件についても、きちんとチェックしてから書類作成に臨みます。
出願書類作成の前段階 ~見せたい自分を設定する~
まず、いきなり書類を順番に作り始めるのではなく、大きな前提として、「その志望校に対してどういう自分像で臨むのか」という柱をきちんと立てましょう。
アプリケーションのパッケージは、全体として、当該ロースクールのAdmission Officeに対し、なぜ自分がそのロースクールに入るべきなのか、ということを説得していくためのものです。
柱があることで、アプリケーションのパッケージ全体に一貫性が生まれます。
何百というアプリケーションに目を通していく中で、一本筋の通ったストーリーのあるパッケージの方が確実に読みやすく、審査に残りやすいものです。
そのためには、第1回でも記載した自己分析、なぜ自分がLL.M.に行きたいか、ということがわかっていることが大切ですが、これに基づいて絞った各志望校について、ある程度のばらつきがあるはずです。
設定しているベースの自分像で大丈夫か、そこに若干の修正を加える必要がないか、という点を、志望校ごとにきちんと検証してから進めます。
自分像の設定については、パーソナルステイトメント(次稿)でも詳しく述べます。
出願書類作成の順番
次に、書類作成の順番についてです。
普通は、何校か出願する場合、締切りが早く来る順番にアプリケーションを完成させていくのだと思いますが、できれば、第1志望が最初に作るパッケージにならないよう、まずは第2志望以下でひとつアプリケーションを完成させる方がお勧めです。
なぜなら、当たり前のことですが、2つ目、3つ目の方が慣れてきますし、2つ目、3つ目を作るにあたって、「あ、こっちの方がよりよいな」とか「これも加えよう」といったことが出てくるのが普通だからです。
1校目の出願準備を想定して、書類の作成順ですが、私のお勧めは、
- アプリケーションフォーム → レジュメ → パーソナルステイトメント →(推薦状)
の順番に着手し、最後まで一通り作ったあとで、全ての書類を再検証するという手順です。
アプリケーションフォームを先に埋め始めた方がいい理由
A アプリケーションフォームを実際に埋めることによって、出願案内のウェブサイトを読んだだけで気づかなかった要件に気づくこともある(例えば、Class Rank Estimation(後述)は、Application Formの成績の欄にひっそりと書いてあったりする)
B パーソナルステイトメントに書くような内容(どんな授業を取りたいか、LL.M.後に目指すキャリアは何か等)がアプリケーションフォームの中に質問として組み込まれている場合もあり、最後まで残しておくとパーソナルステイトメントを仕上げた後で内容が重複するという事態に陥る恐れがある、
C 事実関係の情報だけと思って最後に取っておくと、意外と面倒で時間がかかったりする、などです。
レジュメをパーソナルステイトメントより先にした方がいい理由
A 英語が得意でない場合、いきなりパーソナルステイトメントに取り掛かるより、まずは短く経歴を列挙していく形式のレジュメの方がとっつきやすい、
B パーソナルステイトメントから取り掛かると、レジュメに書けばよいような経歴の羅列にパーソナルステイトメントを使ってしまいがち、といったところです。
アプリケーションフォーム入力ーー4つの注意点
気づいていなかった必要事項や書類の条件をエクセル表などにメモ
アプリケーションフォームは、最近は、オンライン提出のところが多いかと思います。
ですが、作業は途中で保存できますし、作成したものをプリントアウトすることもできる場合が多いと思いますので、まずはアカウントを作成し、できるところからどんどん埋めていきましょう。
進めていくうちに、気づいていなかった必要事項や書類の条件が出てくることがありますので、その際には前述のエクセル表などにメモを残して漏れがないようにしましょう。
PSと似ているような自由記述の事項は別ファイルに書き写し
パーソナルステイトメントに書くような事項(取りたい授業、キャリアプランなど)が出てきた場合には、その問いの項目を別ファイルに書き写し、パーソナルステイトメントと一緒に作業ができるようにして、まずは先に進んで完成させて下さい。
添付ファイルは合理的な分量に
なお、そういった欄について”Please refer to Attachment XX”として添付書類を付けることが可能そうかどうか、オンラインの場合、オンラインアプリケーションのフォーム上添付書類に何がどこにつけられるかを見て確認しておきます。
個人的には、こういった欄について全く何も書かずに添付参照とするよりは、短くてもエッセンスはアプリケーション本体に書き、どうしても足りない又は添付したい場合には添付を使う、という方が見る人にとっては見やすいのではないかと思います。
また、添付を使うとしても、あくまでも合理的な分量にとどめるべきです。PDFバージョンの記載見本などがある場合には、想定されている分量がわかると思いますので、それを大幅に超える添付は控えましょう。
完成後何度も見直し
完成したら、必ず、画面上ではなく、プリントアウトをして、記載を確認します。これは、出願書類全てそうです。
つまらないスペルミスなどで、印象を悪くするのはもったいないです。ロースクールは法曹養成学校ですから、そういったところは重要だと思います。
日にちを変えて何度も見直しましょう。意外とつまらないところでつまらない間違いをしているものです。
レジュメ作成ーー3つのポイント
英文レジュメ(CVともいわれます。)とは、欧米での履歴書のようなもので、志願者の学歴・職歴が1ページにコンパクトにまとまったものです。
LL.M.を目指す方の中には、LL.M.期間中のインターンやその後海外での転職を視野に入れている方もいらっしゃるかと思いますが、海外で何かに応募するとき、まず必要なのはレジュメの送付、就職活動の面接にもっていくのはレジュメです。
形式・構成・分量
”Resume template”などでGoogleイメージ検索をしてみると、たくさんのサンプルが出てきます。Resumeがどういったものかというイメージは大まかにつかめるでしょう。
構成としては、冒頭(名前・コンタクト情報)→Education(学歴)→職歴という順番が一般的です。
職歴の後に、Publication/Lectures(出版物や講演などの実績)またはQualifications(資格)などを記載することもあります。
最後にInterestsとして趣味などを記載したりします。
出願書類とは違うと思いますが、私がロースクールに入った後の就職活動のガイダンスでは、
- レジュメは必ず1ページに収めるように
- 趣味は書いた方がいい
- レジュメは必ずPDFで送る
という指導がありました。
2については、あなたの成績や経歴がいいことは他の書類でわかっているから、”something to show that you are not a degree earning machine” と説明していたのが印象的でした。
実際就職活動などでは面接がその後想定されているので、趣味など何かしらアイスブレイクになる可能性があるものがあるのはプラスなのだと思いますが、LL.M.は基本的に書類選考だけの学校が多いと思いますので必ずしも就職活動と同じとは思いませんが、私は出願の時にも書いていました。
また、3については、ワードだと、自分のパソコンではうまく見えていても相手のパソコンで開いた時にフォーマットが崩れてしまうことがあるから、というのが理由です。
出願書類も、レジュメに限らずオンラインで提出のときには、可能であればPDFに変換してからアップロードする方が良いと思います。
レジュメ作成にあたっての注意点
レジュメを書くにあたっての注意点は、①何を書くか、②どう書くか、です。まずはテンプレートに沿って見よう見まねで作っていきましょう。それらしいものができるはずです。
そこまでできたら、まずは書くことのピックアップです。LL.M.では、特に職歴の部分と思いますが、数年働いていれば、印象的だったこと、功績として特筆すべきと思うことがいくつかはあがるはずです。
これらは、なるべく違った角度からいろいろとあげてみて、最初に設定した当該大学にアピールする自分像にフィットするものを取捨選択して下さい。
例えば、学びたい分野が決まっていればその大学にいる教授の専門分野により近いものを優先して書くとか、ウェブサイトからプロボノに力を入れていそうな大学に見えてそういう経験があればそれも記載する、などです。
先の就職活動ガイダンスと違って、必ず1ページに収めなくてもいいとは思いますが、そうはいってもレジュメはコンパクトなものが期待されていますので、何でもかんでも書くわけにはいきません。
相手にあったアピールポイントを選び出して書く必要があります。
Power Verbを活用
次に、どう書くか、です。
これは、Power verbとも呼ばれ、レジュメを書く上での必須ポイントですが、要は、より主体的に・能動的に自分を見せてアピールできるような言葉を使う、ということです。
これもグーグル検索するだけでPower verbの使い方や具体例など出てきますので、詳細はそちらに譲ります。
同じプロジェクトに携わったのでも、participatedなのかledなのか、全体をリードしていなくても、リードした部分があるなら、led …. part of XXX project と書いた方がparticipated in XXX projectと書くよりよく見えるのではないか、ということです。
Get a better job: Power Verbs for Resume Writing
嘘を書くということではなく、同じ事実関係でも書き方によって伝わり方が違うのです。
そこを利用していかに自分をアピールするレジュメに仕上げるか、ということです。
添削サービスを利用
レジュメは、海外のウェブサイトでオンラインでの添削サービスなどがあります。
質は色々だと思いますが、とりあえずネイティブに英語だけでも見てもらえて、かつ多少はpower verbの観点からもレビューしてもらえるものです。
かなりクイックにレビューしてもらえるものもありますし、レジュメはパーソナルステイトメントに比べたら安いので、身近に見てもらえるネイティヴがいない方などは、利用してみるのもありだと思います。
但し、当然のことですが、添削サービスを使っても、書いてあることは見てもらえますが、そこに書く項目として選び出したものが適切かは見てもらえませんので、上記の①の過程はしっかりと自分でやることが大切です。
推薦状ーー誰にいつどうやって依頼
そもそも誰にお願いするのか
通数と要件(Academic Nature・職場の人など)を満たしている限りにおいて、誰でもいいと思います。志望する大学にすさまじいコネを持っている、という人がいる場合は別ですが。
要は、エジプトのカイロ大学の民法の大家の●●教授、とか、ベトナムの最高裁判所人事局付の●判事、とか言われても、私たちが「なるほど?もしかしてすごいのかな?よくわからない」という感じで終わってしまうのと同じです。
アメリカ人にとって、推薦状を書いている人が日本ですごい人かどうかなんて判定不能だし、はっきり言ってそんなこと興味もないと思うからです。
なので、なるべく自分のことをよく知っている人、あと、実務的なことでは、頼みやすい人、に頼むのがよいと思います。
ただ、ほとんどの大学でAcademic Natureの人の推薦状を要求していると思うので、大学の教授、研修所の教官、又はその双方(2通のAcademic Natureの推薦状が望ましい、としている大学もありました。)を確保しておくのがよいです。
研修所の教官がAcademic Natureなのか、というのは疑問もありますが、私は、1通しかAcademic Natureを要求していないところでは大学教授のを出し、2通以上Academic Natureが望ましい、というところでは、研修所の教官もFormer ProfessorということでAcademic Natureに近い人、ということにしてみました。
また、外国人で推薦状を書いてくれそうな人がいる場合には、その人に頼むのもよいと私は思います。
日本人の推薦状では、「英語も問題ありません」と書いてもらうこともあると思うのですが、所詮、日本人がどんなに私の英語が堪能だと言ってくれたところで、実際に英語で会話をしている人がそれを書いてくれる方が説得的だからです。
お願いするタイミング
推薦状は、基本的には目上の方にお願いするものですから、今日頼んで明日中にお願いしますというわけにはいきません。
上司の場合は常に顔を合わせているので出願することは知っているかもしれませんが、特に大学教授や旧職場の上司などの場合、出願する年の9月初め頃には、近況報告も兼ねてご挨拶に伺うなどして、推薦状をお願いしたいと考えている旨をお話ししておきましょう。
そもそも大学教授の連絡先なども、先輩後輩に聞くなどして事前に調べておくことです。
提出方法の確認
おおっぴらに言うことではないかもしれませんが、日本で上司や教授にお願いすると、「内容はドラフトしてきて」と言われてしまう場合も多いと思います。
その場合、ある程度内容は提案するとして、それをどう提出してもらうかというところも調べておく必要があります。
まず、LSACでしか提出をしてもらえないのか、物理的なレターでも可能なのか、といったことを学校ごとに調べます。
と同時に、どこまで自分が手を動かせるのか確認します
例えば物理的なレターであれば、封をした上で一回全部郵送してもらって、こちらで封筒ごとフェデックスで送付する、などもありえますが、推薦者の方でも、どこからは自分でやりたい・やりたくない、等あるかと思います。
推薦状の中身を作る以外の作業面でも、お願いする範囲を明確にした上で、丁重な指示書を作って正確に作業をお願いする必要があります。
内容について
自分についてどんなことを書いて欲しいのか、推薦者にお願いする際に、きちんと説明又は提案できるように準備します。
そのための第一歩として、まずは、愚直にInstructionを書き出しましょう。ただの単純作業ですが、大事です。
なんとなくこの人がいい、ってことを書いとけばいいんだろう、という漠然なイメージを持っていると思いますが、推薦者に何を書いてほしいのか、ということは、各大学がきちんとInstructionに書いてくれています。
ですので、推薦状は、大学が知りたい情報に答える形で、Criteriaが明示されている場合にはそれをできる限り網羅することが望ましいです。
そうはいっても、例えば英語について日本の大学の教授がコメントすることは難しいので、そういった無理なことについてあえて触れる必要はないと思います。
どういう関係か、どのくらいの期間知っているか等の情報も書くように要求されていたりします。
要件を理解した上で、あとは、どの強みの部分をどの推薦者に言ってもらうか考えて依頼をして下さい。
また、現在の職場の上司などである場合は、設定しているキャリアプランに対してサポートが得られている状況であるとか、又は、当該キャリアプランを達成するポテンシャルを十二分に有しているであるとか、そういったことを述べてもらうのも良いと思います。
大学の教授の場合は(アカデミアの志願者の場合は別ですが)、現在描いているキャリアプランとそこまで直接な結びつきがないケースもほとんどかと思います。
基本的にはとびきり優秀な学生だったと言ってもらうことになりますが、具体的なエピソードなどをあげてもらえると良いでしょう。
例えば、ゼミで一番しつこく鋭い質問をしてくる学生だった、卒論について非常にユニークな視点だった、など。
» 海外大学・大学院留学に必要な推薦状 作成依頼から提出まで
» 海外大学院留学のための推薦状|書き方ガイドとテンプレート
大学の成績・TOEFLスコア
大学の成績・TOEFLスコア自体については、この記事の前半で記載の通り、LSACを利用して送付しておけば足ります。
大学の成績自体については、GPAを計算して記載することが求められる、Honors等の記載が求められる、ことがあります。
GPAというのは、大学の成績を数値に換算しなおしたものです。大学によってABCや優良可などあるかと思いますが、日本の成績の換算方法については、Fulbrightのウェブサイトが参考になるかと思います。
多くの大学で、Class Rank Estimationとか、Statement of School Rankとかの書類を作成する必要があります。
また、要求されていなくても、成績がアピールになる人は、For your referenceとして勝手に添付します。
これは、日本の普通の大学だと、彼/彼女の順位は卒業生何名中何位、というのは、1位以外わからないので、自分で、●●大学にはOfficialなRankingはない、しかし、私がAを●個もとっていることから推察するに、私はだいたい上位●%であったと予測される、といったことを書く1枚ぺらの紙です。
この紙は、Aが何個あるのか、Transcriptに何とかいてあるのかがわからないと作れません。
前でも触れましたが、大学の成績のLSAC送付の際に、必ず、大学側に公表されるのと同じ英文のものを入手しておきましょう。
最後に
LL.Mの受験生だけでなく、海外大学院を目指している全ての方にとって、少し参考になれば幸いです。