IELTS(International English Language Testing System)は、英語圏への留学や海外就職を目指す人にとって欠かせない試験です。
特にスピーキングセクションは、日本人受験者が最も苦手な分野の一つです。実際、日本人のIELTSスピーキングの平均スコアは5.5と、リーディング(6.1)やリスニング(6.0)と比べて低い傾向にあります(※出典:IDP Education IELTS 公認模試4回分 P12)。
この背景には、英語を話す機会の少なさに加え、論理的に話を組み立てるスキルの不足も関係しています。試験官を前にすると緊張し、質問に対して短く答えるだけで会話を発展させられない受験者も少なくありません。
そこで今回は、IELTSの共同所有者であるIDP社の東京テストセンターで、IELTS Speakingの専門家Colleen先生に、日本人受験者がスピーキングスコアを向上させるための効果的な学習法について、伺ってきました。

Colleen Mathieu
アメリカ出身。ミシガン大学でフランス語と国際学を専攻し、交換留学を経て日本に移住。英語教育資格CELTAを保有し、IELTSを含む試験対策指導に長年携わる。英語教授歴20年に加え、通訳、ナレーター、FM福岡のラジオDJとしても活躍。まさにSPEAKINGのプロといえる。
市川 智子 IDP IELTS Country Manager / 日本統括責任者
取材者:
メンシャン
中国出身。英語圏への留学経験なしでIELTS8.0(スピーキング7.5)を取得。コロンビア大学、ペンシルベニア大学、ニューヨーク大学、メルボルン大学教育大学院に合格。現在は『There is no Magic!!』を運営し、イメージで覚える英単語アプリTANZAMのコンテンツ開発も手がける。
目次
IELTSスピーキングの最新動向と日本人受験者の課題
試験方式や出題傾向
メンシャン:最近のIELTSスピーキングの試験方式や出題傾向に変化はありますか?
Colleen先生:試験方式では、IELTSスピーキングのオンライン実施が増えているのが大きな変化ですね。ただ、出題傾向そのものには大きな変化はほとんどありません。
その理由は、IELTSが世界中で実施される国際的な試験であり、特定の地域や文化、専門的なトピックに偏ることなく、すべての受験者にとって関連性のある話題が選ばれるからです。
IELTSは長年にわたり一貫した基準を維持しており、今後もしばらく大きな変化はないでしょう。
日本人が苦手とするポイント
メンシャン:日本人のIELTS受験者が特に苦手とするポイントは何でしょうか?発音の問題でしょうか?
Colleen先生:実は、日本人の発音は以前と比べて大きく向上しています。日本の学校教育でも「カタカナ英語」を使わない指導が増え、発音の面では確実に改善が見られます。
ただ、IELTSでは、試験官の質問に対して具体的なエピソードを交え、論理的に話を展開することが求められます。
しかし、日本人受験者の多くは「実体験の話しかできない」と考えてしまい、柔軟な発想ができないことが課題となっています。
例えば、「今までにひどいバス旅行をしたことがありますか?」と聞かれた場合を考えてみましょう。「いいえ、ありません」と答えてしまうと、それ以上の展開が難しくなります。
しかし、「もしひどいバス旅行をしたらどうするか?」と想像したり、「似たような旅行経験を語る」など、異なる視点から話を展開することも可能です。
スピーキング5.0から7.0へ!バンド別に求められる語彙・文法
議論を膨らませるコツ
メンシャン:話をロジカルに膨らませるコツは何でしょうか?
Colleen:いくつかのポイントがあります。
1. 5W1Hを活用する
例えば、「バス旅行について話してください」と言われたら、「いつ?」「誰と?」「どこへ?」「なぜ?」と自分で問いを立てることで、話を自然に広げることができます。2. 「なぜ?」を繰り返し問う
「なぜ?」を繰り返すことが大切です。例えば、「バス旅行の話をしてください」と言われたら、まず「どこに行ったのか?」を考えます。「京都に行きました」と答えたら、「なぜ京都に行ったのか?」「いつ行ったのか?」とさらに掘り下げ、「春に行きました」→「なぜ春を選んだのか?」と展開すると、より豊かな説明になります。3. 単語力を増やす
スコア5.0台の受験者には少し難しいかもしれませんが、描写的な言葉を意識することが重要です。「京都に行った」だけで終わるのではなく、「京都は歴史的な街で、独特な神社やお寺がたくさんあります。」といったように、例えば Historical, cultural, unique などの形容詞を加えると、より具体的で説得力のある回答になります。

語彙や文法・一貫性について
メンシャン:一部の受験者は「難しい単語や高度な文法を使えば高得点が取れる」と考えていますが、それはどこまで正しいでしょうか?
Colleen:難しい単語や高度な文法を使うこと自体は良いですが、問題は一貫的に使えるかどうかです。
たとえば、「花が咲いている公園に行きました」という話の中で、「その花々はとても pulchritudinous でした」のように、簡単な文の中に、いきなりネイティブでもあまり使わない単語を無理に入れると、かえって不自然に聞こえてしまいます。
それよりも、トピックに合った適切な単語を使う方が評価されやすいです。
私はこの現象を「ファッション」に例えることが多いです。
例えば、シンプルなユニクロの服装に、突然派手なブランド帽子を合わせるようなものです。それを自信を持って着こなせるなら問題ありませんが、そうでないとちぐはぐな印象になってしまいますよね。
そのため、無理に難しい単語を使う必要はありません。
それよりも、自分が気持ちよく使える単語、トピックに関連した適切な語彙を選ぶことが大切です。また、「難しい単語を増やす」ことよりも、「言い換えの幅を広げる」こと(類義語)を意識しましょう。
たとえば、「beautiful」だけでなく、「lovely」「charming」「stunning」など異なる形容詞を使うことで、表現の幅が広がります。
6.0の語彙レベル
メンシャン:つまり、複雑な単語や文法よりも、正確に使うことのほうが重要と考えてよいでしょうか?
Colleen:正確に使えるのであれば、より複雑な語彙や文法を取り入れるのは良いことです。ただし、複雑さと正確さのどちらを優先すべきかは、受験者のレベルによって異なります。
バンド5.0あたりの受験者の場合、複雑な文法や語彙を積極的に使おうとする姿勢自体が評価につながります。
未習熟の単語や文法を試しながらも、意味が伝わるレベルであれば、スコアアップにつながる可能性があります。ただし、文法が崩れすぎて試験官が理解できないレベルになると、逆効果です。
7.0の語彙レベル
バンド5.0や6.0では、挑戦する姿勢が評価されますが、6.0から7.0への移行には、より高い「正確さ」が求められます。
7.0を取るには、単に複雑な表現を試すだけでなく、それを適切に使いこなしていることが前提となります。
このレベルでは、「意味が通じるか」ではなく、「自然で洗練された英語かどうか」が評価基準になります。
7.0以上では、どんなトピックにも対応できる柔軟性が求められます。また、7.0以上では、言葉に詰まることなくスムーズに話し続ける力も求められます。
6.0の受験者が時折見せる「考えながら話すための間」がほとんどなくなることが、7.0と6.0の大きな違いです。
IELTSスピーキングの壁を突破!スコア別に見る改善ポイント

メンシャン:では、IELTSスピーキングのスコアを5.0から6.0、6.0から7.0へ上げるには、具体的にどのような点を改善すればよいでしょうか?
5.0から6.0へ
Colleen先生:スコア5.0から6.0へ上げるには、話の流れを意識することが重要です。
難しい文法を使う必要はなく、単文をつなげるだけで流れるような会話になります。例えば:
✗「I went to Tokyo. I ate ramen. I visited a temple.」
✓「When I went to Tokyo, I ate ramen. After that, I visited a temple.」
このように、基本的な接続詞を適切に使うことで、スコア6.0レベルの表現に近づきます。
さらに、中学・高校で習う構文(関係代名詞、仮定法など)を活用すると、より流暢なスピーチになります。
- When I _____, _____ happened.(例:「When I visited Kyoto, I was surprised by how many temples there were.」)
- It was something that I____.(例:「It was something that I had always wanted to try.」)
- 条件文・仮定文を使う(例:「If I had more time, I would visit Kyoto again.」)
6.0から7.0へ
Colleen先生:スコア6.0から7.0へ上げるには、語彙の幅を広げ、話の内容を深めることが重要です。
バンド6.0の受験者は、自分の経験をもとに話せますが、それを抽象的な話題へ発展させるのが苦手です。
例えば、「東京の公共交通機関についてどう思いますか?」
スコア6.0の回答:
「I often take the subway, and I think it’s very useful.」(個人的な経験のみ)スコア7.0の回答:
「Public transportation in Tokyo is well-developed, but there are still issues with overcrowding. The government could invest more in infrastructure to improve efficiency.」(社会的な視点を含めた意見)
このように、個人的な経験から社会的な視点へ発展させることが、6.0と7.0の違いになります。
また、スコア6.0の受験者は、同じ単語を繰り返しがちです。7.0以上では、類義語を適切に使い分けることが求められます。
✗ 「The flowers are really beautiful. I like beautiful flowers.」
✓「The flowers are really lovely. I enjoy looking at these stunning blossoms because they put me in a pleasant mood.」
このように、語彙のバリエーションを増やすことが、高得点を取るためのポイントになります。
短期間でスコアアップのための現実的なアプローチ
試験まで2週間で1.0スコアアップする方法
メンシャン:There is no Magic!!を運営していると、読者からよく質問される内容です。ぜひColleen先生の知見をお聞かせください。
試験までの時間が限られている場合、どのように準備すればよいでしょうか?2週間や2か月といった短期間で、効果的にスピーキング力を伸ばす方法はありますか?
Colleen:そうですね。試験まで2週間しかない場合、スコアを0.5ほど上げることは可能ですが、そのためには毎日英語を話し、本気で取り組む必要があります。
例えば、毎日英語で話す環境を作り、できるだけ多様な話題について会話することが重要です。また、語彙の幅を広げ、新しい単語や表現を実際の会話の中で使ってみることも効果的です。5.0から6.0へ上げるには、正確さにこだわりすぎず、新しい表現に積極的に挑戦することがポイントになります。
2か月あれば、5.0から6.0、場合によっては6.5までスコアを伸ばすことも十分可能です。ただし、本気で取り組むことが前提となります。
一方、2週間でスコアを1.0上げるのは非常に難しく、現実的ではありません。もし2週間でスコアを1.0上げるなら、ネイティブとルームシェアする、海外の語学学校に通う、家族や友人と英語だけで話す、テレビや読書もすべて英語にする、といった24時間英語漬けの生活が必要でしょう。
とにかくたくさん話し、実際に使ってみることが最も効果的な学習法です。単語を覚えるだけではスコアは伸びません。英語を話せば話すほど表現が自然になり、自信もついてきます。「話すことが楽しい」と思えるようになれば、成長のスピードは格段に上がりますよ。
まさに 「There is no magic!」 という言葉の通り、語学学習に魔法はありません。正しい方法で継続的に努力しなければ、成果は出ないのです。
おすすめのスピーキング独学方法
メンシャン:他には、おすすめの独学方法がありますか?
Colleen:ChatGPTはスピーキングの練習にも非常に役立ちます!
特に、フレーズ動詞(phrasal verbs)やイディオムを学ぶのに最適なんです。たとえば、「バス旅行について話す練習をしたい」と考えた場合、ChatGPTに次のように頼んでみることができます。
「バス旅行について話したいので、関連するフレーズ動詞を5つ、イディオムを2~3個、単語を3~4個教えてください。」
すると、ChatGPTは以下のことを教えてくれるかもしれません。
フレーズ動詞(Phrasal Verbs)
- Catch a bus(バスに乗る)
- Get off the bus(バスを降りる)
- Hop on(バスに飛び乗る)
- Break down(バスが故障する)
- Run late(バスが遅れる)
イディオム(Idioms)
- Miss the bus(チャンスを逃す)
- Hit the road(出発する)
語彙(Vocabulary)
- Commute(通勤・通学)
- Delay(遅延)
- Crowded(混雑した)
ChatGPTは音声も認識できますので、自分の回答を話して、レビューしてもらったりすることもできます。
こうした練習を繰り返し使うことで、実際の会話でスムーズに使えるようになり、自然な表現ができるようになります。
『IDP Education IELTS公認模試』の特徴と活用方法
IELTS公認模試について
メンシャン:私自身、IELTS対策ではオンラインのリソースを活用していましたが、回答や解説の正確さが気になります。IELTSの公式模擬試験はありますか?本番を実力試しとして受験するには、費用が高めなので質問しました。
市川さん:確かに、日本ではIELTS対策本の選択肢は増えていますが、本番と近いレベルの模擬試験が収録されている本は意外と少ないのが現状です。以前は公式模擬試験「IELTS Progress Check」がありましたが、2024年に終了しました。
そこで、より実践的な練習ができる、本番問題と同じレベルの模擬試験を含む教材『IDP Education IELTS公認模試4回分』を刊行しました。
『IDP Education IELTS 公認模試4回分』の特徴
メンシャン:今回の新刊には、どのような特徴がありますか?
市川さん:最大の特徴は、日本人受験者向けに最適化されたIELTS参考書である点です。
Cambridge IELTSなどの公式問題集は、世界中の受験者向けに作られており、日本人に特化した内容ではなく、日本語の解説もありません。
しかし、本書では、スピーキングやライティングのサンプル解答に以下の工夫を取り入れています。
✅ 日本人が話しやすいトピック(ディズニーランド、名探偵コナン、ジョギングなど)を採用
✅ 日本人受験者がつまずきやすいポイントを考慮した充実の解説
そのため、日本人受験者にとって身近なトピックで学習できる点が本書の強みです。
また、IELTSのスピーキング・ライティングでは、試験官が採点の際に「バンドスコア評価基準(Band Descriptors)」を使用します。しかし、公式の日本語訳は分かりにくく、受験者が十分に理解できないことが多いのが現状です。
そこで本書では、より分かりやすい日本語訳を提供し、受験者が評価基準を明確に理解できるよう工夫しました。
スピーキングやライティングの活用方法
メンシャン:スピーキングやライティングは、独学で上達しづらいセクションですが、受験生はこの本をどうやっていかせますか?
市川さん:この本のスピーキングセクションはIELTS Speaking ExpertのColleen先生が執筆しました。
長年にわたり日本人学生を指導してきた経験を生かし、日本人受験者が苦手とするポイントや試験で求められるスキルを的確に押さえた内容になっています。
また、単なる解説だけでなく、実践的な「エキスパート・ティップス(Expert Tips)」も掲載しています。これは、Colleen先生が過去に実施したIELTS対策講座の内容をもとに作られており、「頭の中で英語を組み立てる力」を鍛えることを目的としています。
ライティングセクションでは、IELTS対策として2つのレベルの模範解答(モデルアンサー)を提供している点が特徴です。
一般的なIELTS対策本には、バンドスコア8.0~9.0の完璧なサンプルエッセイが掲載されていますが、多くの学習者にとってレベルが高すぎるのが現状です。
実際、IELTS受験者の多くは、ライティングでバンドスコア6.0~6.5を目指しているため、「目標レベルと乖離した模範解答」では学習効果が上がりにくいのです。
そこで本書では、2種類のサンプルエッセイを掲載しています。
✔ バンド8.0~9.0レベル:豊富な語彙と論理的な展開を駆使したハイレベルな文章
✔ バンド5.5~6.0レベル:シンプルな単語や文法構造で書かれた正確な英語
これにより、受験者は
✅ まずシンプルな表現を理解し、自分のレベルに近いエッセイを参考にできる
✅ より高度なエッセイと比較し、「どの部分を改善すればスコアが上がるのか」が明確になる
といった学習が可能になります。
また、IELTSのスピーキング・ライティングでは、試験官が採点の際に「バンドスコア評価基準(Band Descriptors)」を使用します。しかし、公式の日本語訳は分かりにくく、受験者が十分に理解できないことが多いのが現状です。
そこで本書では、より分かりやすい日本語訳を提供し、受験者が評価基準を明確に理解できるよう工夫しました。
Colleen先生:実際、私自身がIELTSのライティングを書いた際、「ネイティブの感覚で書いただけ」では7.5しか取れませんでした。IELTSでは、単に英語が流暢であること以上に、「アカデミックな構成や論理性」が重要視されるからです。
そのため、本書を活用する際のポイントとして:
1️⃣ まずは問題を見て、自分でエッセイを書く
2️⃣ その後、ChatGPTに「このエッセイを文法的に直して」と依頼する
3️⃣ 本書のモデルアンサーと自分のエッセイを比較し、どの部分を改善すべきか分析する
これにより、より効率的にスコアアップを目指すことができます。
バンド8.0以上を目指すなら、まるでシェイクスピアの作品を読むかのような語彙力と論理的思考が求められます(笑)。それほど、IELTSのライティングで高得点を取るのは難しいのです。
『IDP Education IELTS 公認模試4回分』がおすすめの人
メンシャン:そういう意味で、この本をどのような受験者におすすめでしょうか?
市川さん:この本は 完全なIELTS初心者向けではありません。 目安として、 IELTS5.5~6.5レベルの受験者を対象にしています。
初心者の方がこの本を使用すると、「難しすぎる」と感じる可能性があるため、まずは基本的なスキルを身につけるための教材を使い、その後この模擬試験に取り組むのがベストです。
IELTSのスコアを伸ばすためには、ただ知識を詰め込むのではなく、実際に書き、話し、比較しながら改善することが大切です。
本書では、単なる「問題集」としてではなく、 受験者が自分の課題を把握し、着実にスコアアップを目指せる教材となるよう設計されています。本番の試験前にしっかりと準備をしたい方には、ぜひ活用してほしい1冊です!
まとめ
IELTSスピーキングセクションで高得点を狙うためには、継続的な練習と適切な学習戦略が必要です。
本記事で紹介した準備方法を活用しながら、IDP社の新書 『IDP Education IELTS 公認模試4回分』を参考にすることで、より効果的にスコアアップを目指せるでしょう。
試験本番で自信を持って話せるよう、しっかりと準備を進めてください。IELTSの成功を願っています!


